ずっと一緒にいたかった



 ふ、と十代は足を止めた。
 空は快晴で、自分の頬を掠める風は随分と心地いい。
 何処に向かってもいい、適当に真直ぐ、真直ぐ、ずっと真直ぐ歩き続けて何処まで行くのだろうか。
 全くプランを立てていなかったから、十代は荒野に一人で空を見上げる。
 大徳寺はファラオの横でダラダラと惰眠をむさぼっていて、ファラオもまた彼と同じような状況。
 精霊のユベルは我関せず。

「どーこいくかな」

 何処にでもいけると、逆に困る。
 そう笑った十代に、不意に突風が吹いた。
 飛んでいった白い紙は皆とのつながりである「それ」で、一瞬十代の顔がこれでもかと言わんばかりにこわばった。

「ややややややべえええええ!! ネオス!ネオス!いや誰でもいい!」

 カードを具現化して、取りに行かせる。
 渡されたそれは少しクシャクシャになっていたが文字はゆがんでいなかった。それだけで、今は十分だ。
 ほっと、一息つく十代にユベルは「ばぁか」と笑ってみせる。
「そんなグダグダ言ってるなら、一緒に居ればよかったじゃないか」

 それが、誰を指すのか十代には分かりきっていた。ユベルは、全てお見通しなのだろう。
 逃げるように飛び出して、気を紛らわせるかのように走り出した自分の、その理由を。
 決して言わないのが優しさなのか、はたまた逆にからかっているのか――は十代には分からない。

「……るせーなーいいんだよ!」
「ふーん、泣いてるんじゃないの、あの娘」

 ニヤニヤと笑うユベルに、十代は睨み付ける。
 そう、ユベルは少し前に自分が他の者の中に居ることを妬み、異世界へ連れて行き仲間を消し去った。
 そのユベルが言うのが何とも違和感があったのと同時に――恋と愛は異なるということを主張しているようにも見える。

「お前は良いのかよ」
「僕?何で僕が気にしなきゃいけないのさ。こうして十代と一緒に居る、十代の成長が見れる、それが僕の愛だよ」
「はいはい、よく恥ずかしいこと言えるよなぁ」

 そもそも彼女はそんなことで泣くような女ではない。
 気の強くて、でも弱くて、何より決闘者という誇りを持った、友であり、仲間であり、ライバルであるからこそ、あそこにいたのだ。

 受け流すように手を軽く振って、丁寧に紙を折りたたんだ後に、また空を見上げた。
 空の青さは自分の良く知る“彼女”の色だ。
 こうして空を見上げるたびに、きっと何度でも思い出すのだろう。今まで過ごしてきた日々を、彼女を、友を。

「怒ってるんだろうなー」
「まぁ少なからず一発殴られる覚悟くらいは必要かもね」
「お前、フォローしろよ!」

 何で僕が。
 そうはっきり言うユベルにがっくりと肩を落としながら、十代はこぶしを突き上げる。
 気分は上々、よし、と叫ぶとファラオを抱きかかえて進行方向を決断した。

「よーし真直ぐ行くぞ!」
「またかにゃ十代君!」
「んで、ヒッチハイクさせてもらうんだ!」

 行くぜ! そう笑顔を作って、突っ走る十代を彼女の色をした空は、少し楽しそうに染め上げていった。


【ずっと一緒には、いられなくても、気持ちは繋がる】

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