終わりの欠片が降ってくる


得物がぶつかり合う音がして、ゆきはその方向へゆったりと足を向けた。
金属音が妙に耳を劈く。庭先の方からだろうか。物音を立てないように縁側に出れば、そこには腰をかけてじいと外を眺めているリンドウの姿があり、彼女は少しばかり驚いた。
彼がこういったことに興味があるとは聊か思えない。じいっと見つめながら、ゆっくりとリンドウに声をかけてみると、楽しそうにリンドウは笑って手を上げて見せる。
「やあ、神子殿。観察かい?」
「観察、ですか?」

何のかは分からないが復唱するとリンドウが薄く笑い、あれ、と目の前の二人に指をさす。ゆきが顔を上げれば其処には鉄扇を広げて沖田の攻撃を免れるチナミと、第二撃、と波状攻撃を仕掛ける沖田の姿があった。
度々努力家の二人が武器を交えていることは知っていたが、何だか新鮮で彼女は繁々と見つめているとリンドウは喉の奥ですこしばかり笑う。腰掛けたままの姿で彼は、少年二人を見つめていた。

「若いっていうのは、特別なことだよね」
「……特別、ですか?」
「そう」

我武者羅に出来るのは、限界があるんだよ。
苦笑いをしたリンドウに、ゆきはあまり意味が分からず首を傾げると彼は矢張りというべきか笑って「まぁ、神子殿も若いか」と繰り返した後に、二人へ視線を戻した。

武器がぶつかり合う音、彼らの気迫のこもった声。真剣な表情。それらはゆきの五感を支配した。
どのくらい見つめ続けていただろう。沖田の切っ先がチナミの鉄扇を弾き飛ばし、彼の喉元に突きつけた。
ぐ、う、と鈍い声が聞こえてくる。隣でリンドウが勝負あったね、と笑っていうのが聞こえてきた。

「……ゆきさん」
「なんだ、お前、見ていたのか」
「うん」

こくり、と頷くと随分気まずそうにチナミは顔を背けた。
反して沖田は随分穏やかに彼女に挨拶を交わした後に、刀を鞘へと静かに戻して微笑を浮かべる。ゆきは二人を見ながら、そっと立ち上がり、その場にあった下駄をつっかけてカランコロンと足取り軽く二人の元へと寄っていった。

「怪我はしていない?」
「僕は大丈夫です」
「オレも問題ない」
「良かった」

ほっと一息ついた彼女と、彼女を見守る二人を見ながらリンドウは幽かに感じた違和感に瞳を揺らし、静かに目を閉じる。
……否、これは教えることではないのだから、自分たちで気づくしか無い。
終わりの時は刻一刻と近づいてきている。季節は静かに代わり、春が近づいてきている。
はらり、風花がまるで終わりの時を告げるように、静かに舞っている。
彼らは別離の――その覚悟を決めなければならない。戦うこととは、また別の。


「それじゃあ僕は江戸城にいかないと」
「あ、はい。お勤めがんばってくださいね」
「はいはい」

またね、神子殿。くしゃりと彼女の頭を撫でてリンドウは彼らから背を向け飄々と歩いていった。


【もうすぐ別れを告げる恋 / title:恋したくなるお題

Back
Template by Soprano!