うららかひだまり


飄々と笑う姿を思い出して、思わず都は両腕を組んで顔を渋めた。
男勝りだと言われることには慣れているし、周りからも再三ゆきと比較された。
実際ゆきと彼氏彼女だと間違われる回数もジュニアスクールのときは特に多かった。
虫除け対策も色々練ったが肝心のゆきがいつも気づかないから意味をなさなかったけれど。
いつか、ゆきだって好きな奴が出来る。
それぐらい彼女だって分かっていたし、自分だっていつか誰かを好きになることもあるとは分かっていた。
過剰なまでのゆきに対しての執着だって自分が「ゆきを守れるナイト」だという自覚の上だった。
「優越感」というものから、といえば言葉は悪いが実際そうだ。
あちらの世界にいって嫌というほど実感した。愚かしいとも思う。
それでも彼女は変わらない笑顔で言う。都がいてくれてよかったと。
だから、彼女の幸せを友として、従姉妹として、対として、願わずには居られなかった。

……それなのにだ。

彼女が選んだのは、彼女に一番容赦がなかったリンドウで。
リンドウの独占欲というものは自分より随分強いもので、思わず都は呆れた。
此方の世界で言うならリンドウもいい年だ。仕事は何をしているのかは識らないし都からすれば興味もない。

最終的には、ゆきが楽しそうに笑うのを見ているだけで十分だ。
ふわりと甘い砂糖菓子のように笑って「都」という彼女はいつまでも変わらないのだろうと都は思う。 リンドウは「本来のゆき」をきっと引っ張り出すのだろう。
神子ではなく、「蓮水ゆき」を。あちらの世界でゆきとリンドウの間に何があったのかは分からないが、彼らが此方の世界で一緒にいるところを見ると随分とリンドウが執着しているようにも見える。
実際は、ゆき自身も都からすれば驚くほどにリンドウに執着しているし、大人びようと姿勢を伸ばしている。
大人な余裕と、子供の精一杯。ちぐはぐとした嫉妬と執着。
彼がこの世界を選んだ理由にゆきがあるのは明白で、ゆきの周りの男達避けに先日指輪を贈ったという話を耳にして都は思わずゆきの両肩を掴んだものだ。

「頼むから学生結婚だけはしちゃ駄目だから」

ゆきはふんわりと笑って「まさか」とだけ言った。
きらきらと首から下がる指輪が光る。

ひだまりの中優しく笑う「神子」ではなくなったゆきは、もう都の手から離れている。
リンドウが女性に熱視線を送られているのを見てなんとも言えない顔をしていたゆきの表情は「嫉妬」のそれで、都からすれば以外だった。
自分の隣にはいないけれど、そこまで執着しているのならば、認めるしか無い。
実は一番意地悪なのは、都でもリンドウでもなく、ゆきなのかもしれない。
運ばれてきたケーキセットが楽しみなのか声を弾ませ、微笑むゆきを見ながら、ほんの少し都はそんな予感がよぎった。
けれど、そんなことはリンドウに絶対教えてなんてやらない。
精々、彼女を射止めたのだから四苦八苦すれば良い。
これぐらいなら、意地悪にはきっと入らない。
祝福してあげているのだから、ましだと思え。
コーヒーに口をつけながら都は柔らかく目を細めて笑った。

【うららかひだまり / Title:天球映写機

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